建築や家への思いがちりばめられた韓国映画『建築学概論』
初めて鑑賞したときより、二度目の方がより素晴らしく感じる映画ってありませんか?
最近、見た作品のなかでは、韓国映画『建築学概論 』(2012年、イ・ヨンジュ監督)がそうでした。
『赤と黒』にも出演していたハン・ガイン、『赤道の男』のオム・テウンと、私の好きな俳優さんたちの出演作。
1年前ぐらいかしら。
TSUTAYAで『建築学概論』という何やら小難しそ―なタイトルのDVDが目に飛び込んできたのは。
『頭の中の消しゴム』『私たちの幸せな時間』の興行成績を6年ぶりに塗り替えた作品!というコピーに惹かれDVDを借りたのですが、その時は「フツーに感動的な映画」でした。
それが最近、再びこの『建築学概論』を見る機会があり、なんと素晴らしい作品!と感動を新たにしたわけで。
あらすじは
建築事務所で働く建築家スンヨンのもとへ「家を造ってほしい」と女性ソヨンが現れる。
見知らぬ女の人・・・。最初は目の前の彼女が誰だかわからなかったスンヨンでしたが、実は初恋の女性だったことに気がつきます。
そして、彼女の家の設計を手がけていくうちにだんだんとソヨンとの思い出が胸にあふれてくるスンヨン。。
さかのぼること大学生の頃。建築を学んでいたスンヨンが一目惚れしたのが、同じ大学に通っていたソヨンでした。
2人は近所に住んでいたことから、建築学概論の課題でソウルの路地を探索したり、誰も住んでいない家にそっとしのびこんだり。
会うたびにソヨンへの想いが深まる彼だけど、奥手で彼女に告白することなく・・・
そして現在。
ソヨンは医者の夫と別居中。
スンヨンは同じ建築事務所の同僚女性と婚約中。
オトナになって再会した2人が家造りをとおして、誤解から行き違ってしまった初恋を終結させる、というストーリーです。
初恋はすでに消化しているはずなのに、ふたりの胸のかすかな隅っこには初恋の相手がいつでも戻ってこられる場所が用意されていたのだろーな。
と、2人のやりとりを追っていました。
さて、ストーリーもさることながら、胸を締め付けられたのは、たびたび登場するソヨンの家を造っていくシーン。
ソヨンが設計を依頼したのは済州島にある古い家。
スンヨンの設計によってリノベートされていく行程、それは職人さんたちが立ち働く場面、空間が生命を吹きこまれ、だんだんと形づくられていくところなど、建築にたずさわる人たちの仕事が丁寧に描かれてます。
とくに、完成間近の家の海が一望できるリビングで、夜明け前の一面藍色に染まった空が大きな窓の向こうに広がるシーンは、あまりにも美しすぎて涙。監督はこの絵を撮りたかったのではないか?
家づくりのシーンに、建築への愛がこめられているのを感じるはずです。
見終わって知ったのですが、この作品の監督を務めたイ・ヨンジュ氏は大学の建築学科で学び、10年間建築士として働いた経験のある方。ああ、だからこんなふうに建築を切り取れるのですね。
実はこの映画のロケで使われた済州島の住宅は実存するもので、カフェ「ソヨンの家」として営業しています。
映画で使われた小物や俳優さんたちの手形なども展示されているそう。
『建築学概論』は若かりし頃の2人のラブストーリーにもグッとくるのですが、建築という視点で鑑賞するのも興味深いかも。
済州島のソヨンの家をリノベートしていく行程をはじめ、大学生の頃の2人が授業の課題でソウルの路地を歩いたり、ソヨンが借りたアパートに初めてのお客としてスンヨンが招かれるシーンなど、監督の「家」とか「建築」にたいする想いがちりばめられているのを感じるはずです。
ソウルを舞台にしたドラマや映画は数あれど、韓国の人々が暮らす町の坂道や石段などに初めて親しみを感じたのは、題材の背景に建築を軸にした監督の哲学があったからかも。
また、スンヨンと彼の母親、ソヨンと彼女の父親とのつながりもさりげなく盛り込まれ、ストーリーにあたたかな雨が心にふりそそいでいる感じ。
あと、ソヨンを演じた美しきハン・ガインがいろいろな場面で装うファッションもなかなかステキなのです。