クリスマスシーズンに読みたい、ケストナーの『飛ぶ教室』

2016年2月19日本の紹介

クリスマスが近づくと読みたくなる本があります。
それがドイツ人作家エーリッヒ・ケストナーの『飛ぶ教室 』。

1933年にドイツで出版されたこの物語は、翻訳された高橋健二先生によるとケストナー自身の少年時代がよく描かれている作品なのだそう。
とくに主人公マルチンが離れて暮らす母親を思う心は、幼い頃から母親とのつながりが深かったケストナーその人をあらわしているといってもいいでしょう。

2009年の岩波書店からの刊行分(ハードカバー)はなんと53刷! 誕生から時代を経ても読み継がれている本でもあるんですね。

『飛ぶ教室』はキルヒベルクのヨハン・ジギスムント高等中学(男子校)の寄宿舎が舞台になっていて、そこで寝食を共にする寄宿生たちと男性教師が繰り広げる物語。

なぜ、クリスマスに読みたくなるのか?ですが、物語の中で最高に美しいクリスマスのお話が描かれているからなのです。
かいつまんで記すと、

寄宿生のマルチン(高等中学の主席)は父親が無職で貧しく、クリスマス休暇に自宅に帰る旅費さえなく、皆が帰省する日なっても1人残っていました。

彼の悲しみを知ったベク先生は往復の旅費と両親にクリスマスの贈り物を買うようにと、20マルクを与えます。
こうしてマルチンは汽車に乗って、両親へのクリスマスのプレゼントを持って、自宅に戻ることができたのです。

節約生活をおくるマルチンの両親の家では、灯りもともさず、部屋は暗いまま。
客間のロウソクに火をともすと、突然ベルが鳴って…。
ドアを開けるとそこに立っていたのは、帰省するはずのない息子マルチンが!
両親は驚嘆します。

ベク先生に助けてもらったことを話し、マルチンは父親にクリスマス用の葉巻を、母親にはあたたかなスリッパをプレゼントします。

思いがけず、家族そろって心あたたまるひとときを過ごせることになったマルチン一家。
この後、家族全員で過ごせる贈り物を送ってくれた、ベク先生に皆で感謝と御礼の葉書を書いてポストへ投函するため、3人で外出します。

この後は、本から引用します。

それから彼らはがいとうを着て、いっしょに停車場にいきました。
そこで彼らははがきを夜間ポストに入れました。
正義先生(ベク先生のニックネーム)がそれをたしかにクリスマス休みの最初の日に受け取るように。
そして三人はぶらぶら散歩しながら家へ帰りました。
少年はまん中にはさまって、両親と腕組みしながら。

すばらしい散歩でした!
空はかぎりのない宝石店のようにきらめいていました。
もう雪はふっていませんでした。
どこの家にもクリスマス・ツリーがかがやいていました。

(引用終わり)

思いがけずに家族そろってクリスマス休暇を過ごすことができたマルチンと両親の心が、冬の夜空に映しだされているようです。
クリスマス・ツリーが輝いて見えたのは、心があたたまった3人だからこそ、感じられた光景なんじゃないかな。
暗い部屋で過ごしていたら、窓越しに見える電飾のツリーは一抹の寂しさを呼びこんでしまい、さらに寂しい気持ちにさせ、とても輝いているようには見えないでしょう。

実はこの引用した部分の後にも夜空の下での美しい描写が続きます。
ケストナーは人物像をユニークな視点で描くのもお手のものですが、こうした光景の描写も巧妙な作家です。

クリスマスを迎える季節の夜空には何か、人のこころの芯に火をくべる特別なものが潜んでいる。。。
ここのところ、毎日のようにそう思うのは『飛ぶ教室』のこのくだりの影響だな。そう思い、またこの本を手にとってしまうのですよね。(これはマイ風物詩といえるかも)

『飛ぶ教室』の作者、エーリッヒ・ケストナーはなかなか興味深い人物でもあるので、また触れたいと思います。